手外科とは

 手外科学会のホームページをご覧になり、ありがとうございます。さて手外科とはどのような診療科であり、手外科学会としてどのような活動をしているのか、ご存知でない方も数多くおられることでしょう。手外科の学会活動として、世界的には第2次大戦中S.Bunnellが手外科専門医療チームを率い目覚ましい治療効果をあげえたことを契機に、1946年ASSH:米国手の外科学会が設立されました。本邦でも1957年、天児民和教授(九州大学整形外科)が中心となりこの分野の研究発表の場としてJSSH:日本手の外科学会が設立されました。

 手外科とは、上肢機能再建外科です。骨・関節外科、脊椎外科を包含している整形外科を運動器機能外科と捉えると、その一分野が手外科と見る向きもありますが、それは必ずしも手外科の本質を捉えているとは言えません。手の中には、運動器外科に関するあらゆる組織が精緻な構造で存在しています。したがって手外科の素養を修めれば運動器機能外科の全分野をカバーすることができます。しかし逆は必ずしも真ではありません。手指の屈筋腱損傷の治療が端的な例です。かつて一般外科医・整形外科医が担当していた20世紀前半ではno-man’s landといわれ挑戦的かつ予後不良の分野でした。しかしながら手外科の確立により、現在ではsomeone’s landすなわち手外科専門医のみに治療が許されかつ十分予後の期待できる分野に変貌してきています。

 20世紀後半マイクロサージャリー機器の発達により、玉井進教授(県立奈良医大整形外科)は世界で初めて母指の切断指の再接着に成功しました。以来、切断肢指再接着は手外科医の担当分野となっています。形成外科医もマイクロサージャリーの技術を武器に手外科分野に参入し、日本手外科学会は整形外科・形成外科を基盤として構築されてきています。さらに、近年では、日本末梢神経学会(神経内科、手外科、病理、産業衛生など学際分野で構成)ともジョイントミーティングを開催していますが、その中でいわゆる末梢神経障害に関する外科的治療を一手に引き受けているのが手外科医です。まさにS.Bunnellの言葉通り手外科は、眼科学と同じく手という器官を総合的に捉える外科学であり、すでに手あるいは上肢の診療・研究分野で確固たる独立した一分野を形成するに至っています。

 人類の発達を他の霊長類との比較で捉えると、人類が文明を築くことの出来た所以は、上肢の独立性それも巧緻な機能を有する手指特に母指の発達によっています。Penfield and Rasmussen の大脳上のこびとの図で示されるように視覚の補完機能をも有する手指は、他の体幹、下肢に比べ遙かに広い大脳皮質領域で支配されています。このことはヒトがヒトたるに如何に上肢の存在意義が大きいかを端的に示しており、機能再建外科たる手外科の存在意義の証左とも言えます。

 手外科専門医の存在を広く社会的に認知して戴き、国民の一人でも多くの方々が、手を始めとする上肢機能の障害を認識したときは、手外科専門医を尋ねて戴き、正しい治療を受けて戴きたいと切に願うところです。

2013年5月

一般社団法人 日本手外科学会
理事長  落合 直之