キャリアアップ委員会セッション総括

(2024/4/26 第67回日本手外科学会学術)

仲宗根素子(琉球大学)
  古庄寛子(米盛病院)

 第67回日本手外科学会学術総会において、キャリアアップ委員会セッションを開催いたしました。本セッションでは「世代別キャリアアップ、過去、現在、未来」と題して、世代や環境の異なる4人の先生方にご登壇いただき、ご自身の経験から手外科医におけるキャリアアップの現状と課題についてご討議いただきました。
手外科医は専門性的な知識と高い技術を要する分野です。そのため勤務時間や環境に制限がある医師や、キャリアを一時的に中断せざるを得ない医師、専門的な指導が受けられない状況にある医師にとっては専門性を習得することが困難な場合があります。本セッションは、様々な環境や世代におけるキャリア形成の違いについて理解を深め、今後どのような支援、対策が有効かについて話し合うことを目的としました。
それぞれの先生方の発表内容について以下にまとめます。また座長からの質問として挙げた、ご自身のキャリア形成に有効だった支援、および今後望まれるキャリア支援について、お答えいただいた内容を記載します。

・新関祐美先生(草加市立病院):世代間ギャップと指導者層の教育システムの整備
旧臨床研修世代の先生方へのアンケート結果をもとに、発表いただきました。約半数の先生方が世代間ギャップを感じつつも、個々に応じた指導を心掛けておられるということが印象的でした。世代間の異なる価値観への理解を深め、より効果的な育成を行うためのパーソナライズド・エデュケーション(個人の学習スタイルやニーズに合わせて教育をカスタマイズ)や、指導力の育成についてご発表いただきました。これまでのご経験で効果的だった支援については、相談できる環境やon the job training、メンターの存在などを挙げられました。できるところを認め、チャンスを与えるという指導が求められており、指導者層向けのリーダーシップ研修を今後の課題として提案いただきました。

・林原雅子先生(米子医療センター):地方における手外科医のキャリア形成
手外科過疎地域でのキャリア形成における問題点とその対策について発表いただき、限られた医師数の中での手外科の研修が困難な状況が浮き彫りになりました。教育の質を担保するための工夫として、貴重な症例を共有することや気軽に症例相談ができる関係性の構築などが挙げられました。また地方で手外科医を育成するためには医局からの人員配置の工夫のほか、手外科の魅力の発信が必要など、今後の展望を含めてご説明いただきました。限られた症例数や環境を組織の力で支援していくというご発表は、多くの聴衆の先生方にとって大変参考になりました。
これまでのキャリア形成に効果的だった事項として、学会などで得られた県外の手外科医とのつながりを挙げられ、地域や医局に限らない広く連携した教育や指導が求められるとのご意見がありました。

・古庄寛子先生(米盛病院):無所属医師のキャリア形成
特定の医局に属さない手外科医の立場から手外科専門医を取得するまでのキャリア形成について、ご自身の経験と他の無所属医師からのアンケート結果を交えて、発表いただきました。手外科専門医申請のため研修を積むにあたり手外科研修専門施設への就職が課題であった点、また就職にあたってはそれまでご指導いただいた先生からの推薦が有効となった点など、今後の後進の先生方にも参考になるご発表でした。明確な目標と主体性の必要性、メンターとの出会いが大きな支援となることが示されました。キャリア形成に有効だったこととして、学会や勉強会のオンデマンドでの開催を挙げられました。育児中や地方在住など制限のある医師にとって、貴重な学びの機会となっているため今後も継続した取組が必要と考えます。また、他施設から外勤にこられる専門医から指導を十分に受けていても、施設が手外科研修専門施設に登録されていないため研修実績とならなかったというご経験から、専門医の指導が実績に生かされるような仕組み作りが必要とのご提案がありました。

・久桃子先生(東京女子医科大学):若手として望むこと、東京女子医科大学の取り組み
手外科医を志す若い世代として発表いただきました。東京女子医科大学におけるダイバーシティ環境整備について、またリーダーの育成、女性医師登用の促進への取り組みについて発表いただきました。周囲にロールモデルが存在することや、環境整備がなされていることで、若い世代がエンパワーされていることがよくわかりました。オンデマンドなど広く参加できる学びの機会や、支え合える環境が求められるとのことでした。また、若い世代にとって「帰属意識」が重要であるという指摘がなされました。多様性の推進が、つながりを希薄にしてしまうことなく、それぞれの居場所、貢献感、一体感があるような組織つくりをするのが大切であるとのご発表でした。

総合討論では、医局が出産・育児を行っている女性医師を支援するため、別枠で人的確保を行う取り組みについてご意見が聞かれました。また、世代間ギャップへの対策として、協調型リーダーシップ、スポンサーシップを発揮すること、指導医に対するリーダーシップ研修の必要性が強調され、これを今後の課題としました。
キャリア形成における主体性の維持や帰属意識の醸成など、多岐にわたるテーマが取り上げられ、これらの議論が、各世代の医師が直面する課題への理解を深め、後進の育成に繋がることが期待されます。
 このような有意義なセッションを設けて下さいました会長の面川先生をはじめ、ご尽力下さった委員会の先生方に厚く御礼申し上げます。